賃貸トラブル

1 借地借家法

 賃貸借契約については,民法で規定されていますが,賃貸人と賃借人とは,立場に差があり,どうしても賃貸人に有利な内容の契約になってしまうことが多く,民法の規定だけでは,賃借人の保護が十分ではありません。

そこで,建物の所有を目的とする土地賃貸借と建物の賃貸借においては,借地借家法という法律が適用され,民法よりも手厚く賃借人を保護しています。

 

2 立退料に関する問題

 賃貸人が,賃借人に出て行ってもらうとき,立退料を払わないといけない,ということは一般に良く知られています。なぜ立退料が必要なのかというと,借地借家法で,賃貸人の側から契約を解約するときには「正当な事由」がないといけない,とされており,その「正当な事由」の判断において,裁判所は立退料をいくら支払ったか,ということを重視しているからです。

 立退料の相場は賃料の6ヶ月~1年分程度と言われていますが,決まった相場はありません。借地借家法の「正当な事由」は,立退料だけでなく,賃貸人・賃借人が物件を使用する必要性などを総合考慮して決めますので,事案によって必要な立退料が異なります。そのため,相場というものは決められず,具体的な事案に応じて決めることになります。

また,その物件で店舗を営業しているような場合には,転居による営業利益の填補分など,より高額な立退料が必要になるケースもあります。 

 

3 原状回復に関する問題

 賃貸に関するトラブルで,最も多いものがこの原状回復に関する問題でしょう。争いのある金額がそこまで高額ではないため,弁護士などの専門家に依頼することもできず,泣き寝入りされる方が多いのも特徴だといえます。

 原状回復について,賃借人の責任をかなり加重した契約書を作成している賃貸人もいます。しかし,賃貸人は,物件の使用の対価として賃料を受け取っていますので,何年も住んだ部屋を出るときには,入居当時の状態に戻して出ないといけない,となると,あまりに不平等な気がします。

 

 では,どのような損耗が賃借人の責任になるかというと,通常の使用によって生じた損耗を越えた損耗,つまり賃借人の過失によって生じた損耗は賃借人の負担となります。つまり,通常の使用方法や管理方法によって住んでいて,通常生じる損耗は賃借人の負担とはならないが,通常でない使用方法によって生じた損耗や,きちんと管理をしなかったために生じた損耗については,賃借人の負担とされるということです。

では,何か「通常生じる損耗」と言えるかどうです。これについては,それが賃借人の過失と言えるかどうか,という観点から,個別の損耗ごとに考えるしかありません。

具体的には,ペットのひっかき傷やタバコのヤニ汚れなどは賃借人の負担となりますが,壁に貼った絵画の跡や,テレビや冷蔵庫の設置による後部の黒ずみ,ハウスクリーニングなどは,賃貸人の負担とすべきでしょう。

 ただし,通常の損耗を越えた損耗のため,賃借人負担での修繕が必要になった場合にも,それを新品にするための費用を負担する必要はありません。賃貸物件である以上,経年劣化は当然ありますので,それを考慮して負担金額を決めることになります。

 

なお,以上述べたような原状回復の内容と異なり,賃借人の負担部分を大きくするような内容の特約を結ぶことも可能ですが,それが賃借人にあまりに不利な内容である場合には,その条項が無効となり,賃貸人負担とされる可能性もあります。

 

 

4 更新料問題

 2年契約の賃貸借契約を継続する場合,家賃1~2ヶ月分の更新料をとるケースも多いです。この更新料を定めた契約条項を無効とする判決が,大阪高等裁判所で出されています。

 しかし,この裁判で争われた事案は,契約期間1年間で更新料が毎年発生するものであったり,

 

 

 

5 賃料滞納による建物の明渡しについて

 

 店子さんが賃料を滞納しているときの大家さんの対応です。当事者間で交わされている契約書の内容にもよりますが,一般的な話をします。

 

 まずは口頭か書面で催告しましょう。それでも支払いがなく,滞納が3ヶ月程度続き,これ以上契約を継続しても滞納が増える一方だという場合には,内容証明郵便で滞納している賃料の請求と契約の解除を通知します。これで相手が賃料を支払ってきた場合には,それでいいですが,それでも賃料を支払わない場合,裁判手続に移ることになります。

 

 もしも,相手方がいかがわしい人で,裁判をしている間に誰か他の人に物件の占有を移してしまうような人の場合,訴訟の前に占有移転禁止の仮処分をしておくひつようがあります。「占有移転禁止の仮処分」とは,賃貸の目的物の占有(居住者)を第三者に移してはいけない,という裁判所の命令で,相手方に知られることなく素早く判断してくれます。

 このようにして占有者が特定できたら,次は裁判です。

 

 建物の明渡しの裁判と,未払賃料の請求の裁判を提起します。相手方が夜逃げしているなどで,裁判に出頭しなければ,裁判は1回で終結し,判決が出ます。相手方が裁判に出頭したとしても,賃料の未払であれば,さほど争うことはないと思いますので,やはり1~2回の裁判で終わると思われます。

 

 判決を取った後,これで相手が観念して出て行ってくれれば良いのですが,出て行かない場合や,そもそも夜逃げなどの場合には,強制執行をして,強制的に相手方を部屋から追い出し,荷物を外に出さなければなりません。

 強制執行は,裁判所の執行官室に申立を出して,執行官と共に現地に赴きますので,執行官の費用がかかります。また,夜逃げの時などに,部屋の中の荷物を保管する場所を確保しておかないといけませんので,その場所代もかかります。

 部屋の中の荷物を全部出し,鍵を付け替えたところで強制執行が終了になります。

 

 このように,賃料の滞納によって建物の明渡しを行うには,膨大な費用と手間がかかります。そのため,滞納賃料を請求することで下手に話がこじれるよりは,賃料をあきらめてでも,任意で出て行ってもらった方がよいケースもあります。トラブルになりそうな時は,早めに弁護士に相談することをおすすめします。